地中海貿易

11世紀頃からの西ヨーロッパでは都市経済が復活し、遠隔地との交易もさかんになった。ヴェネツィアジェノヴァ、ピサなどのイタリア商人は、ムスリム商人が中心であった地中海の交易に参入するようになった。イタリア商人は、十字軍を支援する形で利益の獲得と勢力の拡大をめざした。イタリア商人は十字軍の武器・食料などの物資輸送を担うとともに、レヴァント(東地中海の沿岸諸地域)のムスリム商人から香辛料などを買い付けて、ヨーロッパにもたらした。
その後、レコンキスタの進展、羅針盤の実用化、船舶の発達、海図などの航海技術の向上は、地中海の商業の担い手や交易地の拡大、交易品の多様化をもたらした。取引された商品は、従来から遠距離交易の対象であったコショウなどの香辛料、宝石・真珠・象牙・毛皮・絹・高級毛織物などの高価で軽量な商品に加えて、ブドウ酒・オリーブ油・小麦・果実・砂糖・塩・羊毛・皮革・綿・ミョウバン・硫黄・タール・鉱石・金属製品・石鹸などの安価で重量のある食料・原料・日常製品が存在した。また軍隊・家庭・農場で働く奴隷がイタリア商人により売買された。

これまで商人は商品をみずから船で運んで売買し、さらにみずからが他の場所もしくは本国に運んでいたが、13世紀末頃からは各地の代理人に通信による指示を出すことで各地で取引を行い、専門の輸送業者に商品を運ばせる形態も出現した。イタリア商人を中心とする西ヨーロッパの商人たちは地中海各地から黒海にかけて代理人を派遣し、カイロのムスリム商人たちはシリア・北アフリカイベリア半島の海岸都市に代理人を派遣して、さかんに貿易を行なった。アレクサンドリアにはヴェネツィアジェノヴァ・ピサ・フィレンツェパレルモなどの商館や領事館が建てられ、多くの商品を買い付けてヨーロッパにもたらしていた。一方で、イタリアなどの商人はエジプトに木材・鉄などの軍事物資を供給していた。

医学・哲学・天文学・数学・光学・化学・地理学などの大量のアラビア語ギリシア語の文献がラテン語に翻訳され、ギリシアの学問と、ギリシアの学問を移入して発展させていたイスラーム世界の学問を西欧世界は初めて学ぶことができた。これがのちのヨーロッパ近代科学発展の基礎となった。

11〜13世紀にヨーロッパの十字軍による戦争が断続的に続きながらも、地中海では商業活動が発展していた。物資の交流のみならず、地中海を経由して、イスラーム世界の知識や技術がヨーロッパにもたらされた。その舞台となったのは、イベリア半島シチリア島であり、10世紀に始まり、12世紀には「大翻訳時代」と呼ばれる学術の興隆をもたらした。